現経営者が事故、病気などで意思能力低下したら
● 事業承継について何らの準備を行わないまま、突然、病気や事故などにより現経営者の意思能力が低下
した場合、企業は機能停止に陥る可能性があります。いろいろなことを決定しようとしても、決定ができずに、
会社の運営に重大な影響を及ぼすことになります。
<重要なポイント>
★ 代表取締役がいなければ、銀行取引や重要な契約、登記申請の委任等ができません
・・・・・契約書に判を押す人がいないのですから
★ 筆頭株主(または全株式所有の株主)が意思表示できなければ、株主総会が成立せず、
会社のついての重要事項の決定(決算承認、役員選任、合併解散、定款変更)ができません
ケース1 社長が4名の取締役のうちの1人であった場合
とりあえずなんとかなりそうなケース
・・・・・・・・ 取締役4名の取締役会設置会社の場合
A 現・代表取締役 →→→ 交通事故で意思能力を喪失
B 取締役
C 取締役
D 取締役
E 監査役
解決策 : BCDの3名で取締役会を行い、BCDのうちの誰か(例えばB)を代表取締役に選任する
Bを代表取締役とする登記申請をして、同時にBが会社実印の届出をする
こうすれば、今後はBが会社の代表者として、銀行取引や重要な契約、登記申請の委任等
を行うことができます。取締役会も有効に成立、運営していくことができます
しかし、Aが自社株式のほとんどをもっていた場合などは、株主総会の運営に支障をきたす
ことがあります
ケース2 取締役3名の会社で、社長が株式全部を保有
最悪、会社の機能が停止してしまいかねないケース
・・・・・・・・ 取締役3名の取締役会設置会社の場合
A 現・代表取締役(1人株主) →→→ 交通事故で意思能力を喪失
B 取締役
C 取締役
D 監査役
問題点
・ 取締役会設置会社なので、取締役は最低3名必要です
→→→ 株主に意思能力が無いので、後任取締役を選ぶための株主総会ができません(困)
・ 取締役会を廃止して、取締役は2名でもよいことにすればどうか?
→→→ 定款変更が必要ですが、そのための株主総会ができませんから、できません(困)
・ 誰かが社長(=100%株主)の代理をして株主総会をやればよいのでは?
→→→ 社長は意思能力を喪失しているので、その誰かに代理権を与えることができません(困)
成年後見制度の利用を考える
● 事故や病気などにより意思能力に支障をきたした場合の制度として、民法は3種類の制度を用意して
います。(任意後見制度については→クリック)
「後見」・・・・・強度の精神障害などにより意思能力の無い状態に適用されます。被後見人の行った行為
は日常生活に関する行為を除いて取り消しの対象となります。また、会社との関係では、
取締役の資格を失います。
「保佐」・・・・・意思能力はあるが財産管理に関する判断能力が平均より著しく低い状態に適用されます。
被保佐人である現経営者の行う重要な行為については保佐人の同意を得なければならず、
会社との関係では、取締役の資格を失います。
「補助」・・・・・軽度の認知症・知的障害・精神障害により意思能力が不十分な場合に適用されます。
被補助者である現経営者に対する補助開始の審判とともに、特定の行為について補助人に
同意権、代理権を付与します。会社との関係では、取締役の資格は失いませんが、現経営
者の行為については制限されますので、会社の活動に重大な支障をきたすおそれがあり
ます。
経営者の責任とは 〜会社は誰のものか?〜
● もし、あなたが事業承継を受けた立場(二代目・後継者)だったら
そのときのことを思い出してみましょう。そのとき、自分は経営者として完璧であったのか?後継者として
ふさわしかったのか?そうすれば、後継候補者に対する見方も変わってくるはずです。今の自分と後継
候補者を比べるのではなく、育てるくらいのつもりで接してみましょう。
● もし、あなたが起業した現経営者(創業者・一代目)だったら
10年後の会社のことを考えてみましょう。男性の場合、その生存率は60歳を超えたあたりから大きく下降
しますので、そのころまでに事業承継について考えておかないと会社にとって大きなリスクとなります。
● 会社は誰のものか?
どんなに体を鍛えた人間でも、必ず死は訪れます。また、事故等により、突然死亡したり、意思能力が
低下することがあります。このようなリスクを考慮しない企業の経営は、取引先や従業員からも支持され
ないとともに、取引先、従業員に迷惑をかけるおそれがあります。
会社を起こしたのは、自分でしょうが、取引先や従業員から支持されたからこそこれまでやってこられた
ことを忘れてはなりません。
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